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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)628号 判決 1999年6月10日

控訴人 A野花子

<他3名>

右四名訴訟代理人弁護士 吉田麓人

同 川西譲

同 宮尾耕二

同 佐藤真理

同 北岡秀晃

同 山﨑靖子

被控訴人 奈良県

右代表者知事 柿本善也

右訴訟代理人弁護士 米田邦

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人A野花子に対し、金一七三四万五八五三円、控訴人B山春子、控訴人C川夏子及び控訴人D原秋子につき、各金五五一万五二八四円並びに右各金員に対する平成六年一〇月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人A野花子に対し、二六九四万二一七九円、控訴人B山春子、控訴人C川夏子及び控訴人D原秋子に対し、各八四八万〇七二六円並びに右各金員に対する平成五年一二月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」(同三頁六行目から二二頁七行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決五頁二行目から三行目にかけての「別紙のとおり」の次に「(ただし、11月17日の抗潰瘍剤欄記載の『コランチル3g及びマーズレンS1・5g各2日分(内服)』を削る。)」を加え、同五行目の「全身けいれんや」を「全身けいれんが起き、」と改める。

2  同六頁六行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「(四) 検査義務について」

3  同七頁末行末尾の次に「亡太郎から、右のような訴えがあれば、重要な事実であるから、担当医師は、必ず、カルテに記載しているはずであるが、カルテにそのような記載はない。」を加える。

4  同九頁六行目末尾の次に「前記のとおり、亡太郎から、右のような訴えはなかったが、担当医師は、亡太郎から、胃の膨満感の訴えを聞き、ステロイド剤を減量し、抗潰瘍剤であるガスターを予防的に投与したものであり、適切な予防的措置及び治療を行ったものである。」を加える。

5  同一〇頁七行目の「くさち耳鼻科」の次に「及び奈良病院の一日目」を加え、同一五頁二行目の「ステロイド剤は同月二〇日まで一二五ミリグラム」を「奈良病院のステロイド剤の投与は一一月一七日から同月二〇日まで各日一二五ミリグラム」と改め、同三行目の「同月二一日」の次に「及び二二日の各日」を、同五行目の「経口剤」の次に「である抗潰瘍剤」をそれぞれ加える。

6  同一八頁二行目の「医師らは、」の次に「非ステロイド系消炎鎮痛剤のみならず、」を加え、同四行目から五行目にかけての「直ちに検査、対診義務」を「、便の性状について、積極的に問診すべき義務」と改める。

7  同一九頁二行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「(四) 検査義務について

(控訴人らの主張)

奈良病院の担当医師は、亡太郎に対し、消化性潰瘍等の重篤な副作用を起こすおそれがある非ステロイド系消炎鎮痛剤及びステロイド剤の服用を指示したものであるところ、ボルタレンを喉頭蓋炎に用いる場合は、原則として五日以内とされ、ボルタレンとステロイド剤との併用は、相互にその副作用を増強させるおそれがあったから、ボルタレンの使用の五日目であり、少なくとも、亡太郎が膨満感を訴えた一一月二〇日以降、それらの薬剤を使用する場合、消化性潰瘍等副作用の発生の有無についての適切な検査をすべきところ、それらの使用の二日目の一一月一七日に血液検査をし、その後は、同月二三日に眼球結膜の目視による貧血の検査をしたにすぎないから、適切な検査をしたとはいえず、検査義務を怠ったというべきである。

(被控訴人の主張)

奈良病院の担当医師は、亡太郎に対し、一一月一七日に血液検査をし、同月二三日に眼球結膜の目視による貧血の検査をし、胃の膨満感を訴えた一一月二〇日以降、抗潰瘍剤を投与し、ステロイド剤を減量しているから、検査義務を尽くし、適切な予防的措置及び治療をしたものである。

8  同二一頁二行目冒頭の前に「亡太郎は、死亡当時、六二歳で、繊維製品小売業をしており、」を加える。

第三当裁判所の判断

一  前提事実

前提事実についての認定は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」一(同二三頁一行目から五一頁五行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二九頁六行目から七行目にかけての「確認した。」の次に「ただ、右松本医師は、亡太郎が胃痛を訴えていなかったのであるから、カルテに胃不快感と記載すべきであったのに、つい胃痛と記載した(乙一・一三頁、証人松本雅央二〇丁)。」を加える。

2  同三七頁七行目の「によれば、」の次に「強度の出血像が胃壁全体にみられ、」を加える。

3  同四〇頁二行目の「急に中止すると、」の前に「連用後、」を加える。

4  同四九頁九行目冒頭の前に「非ステロイド系消炎鎮痛剤等を胃潰瘍の既往のある者や高齢者へ投与する場合、消化性潰瘍等の自覚症状が出現しにくく、重篤な状態ではじめて消化性潰瘍等が発見されることが多いから、十分な内視鏡等による観察が必要だと考えられ、」を加える。

二  争点1(黒色便の訴えの有無等)について

争点1についての認定及び判断は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」二1(同五一頁八行目から五五頁二行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。

原判決五四頁八行目の「一五丁表)」の次に「⑦一一月二四日、亡太郎が奈良病院に救急搬入され、吐血した後、山本医師は、控訴人花子に対し、「何か変わったことはなかったか。」と質問したのに対し、「黒い便が出ていた。」と答えたので、亡太郎に対し、「なぜ、そのとき、言わなかったのか。」と尋ねたところ、亡太郎は、その際は、何も答えず、その後の移動中のエレベーターの中で、「奈良病院を受診してから三日目の夜に黒い便が出た。」と答えたこと(乙三の1、証人山本二丁表、二三丁表)」を加える。

三  争点2(奈良病院の医師の過失の有無)について

争点2についての認定及び判断は、次のとおり加除・訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」二2(同五五頁四行目から六四頁六行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六三頁三行目から八行目までを削る。

2  同六四頁六行目の次に行を改め、次のとおり加える。

「(四) 検査義務について

一般に、患者に対して消化性潰瘍等の重篤な副作用が発現するおそれのある薬剤を継続的に投与する場合には、原則的に許容されている投与期間を超えて投与するとか、副作用の発生の兆候がみられるような場合、副作用が発生したか否かについての十分かつ適切な検査をする義務があると解するのが相当である。

これを本件についてみると、ボルタレンを喉頭蓋炎の治療に使用する場合、消化性潰瘍等の重篤な副作用が生じるおそれがあるため、原則として五日以内の使用とされているところ、奈良病院の担当医師は、亡太郎に対し、くさち耳鼻科が投与したボルタレン五日分の残りの服用を指示したうえ、治療のために必要ということで、一一月二〇日に、許容期間を超え、さらに二日分のボルタレンを投与したものである。また、ステロイド剤であるソル・コーテフ及びソル・メドロールの許容量については、ソル・メドロールを各日五〇〇ミリグラムを二日間、各日三七五ミリグラムを二日間、各日二五〇ミリグラムを二日間、各日一二五ミリグラムを四日間連用した例(乙一五の3)がある反面、ソル・メドロールの投与の許容量は二日間の合計で最大限三〇〇ミリグラムとの説(甲二四の一五頁)があるなど、必ずしも定説はないようであるが、三〇〇ミリグラムを超えてソル・メドロールを投与する場合、副作用の発生について注意を要するというべきである。ところで、亡太郎に対しては、別紙記載のとおり、くさち耳鼻科において、11月16日にステロイド剤であるソル・コーテフ二〇〇ミリグラム(ソル・メドロールに換算して四〇ミリグラム)を、奈良病院において、同月17日から同月23日までステロイド剤であるソル・メドロール(同月一七日から二〇日まで各日一二五ミリグラム、同月二一日及び二二日に各日八〇ミリグラム、同月二三日に四〇ミリグラム)をそれぞれ点滴剤として投与しており、合計七四〇ミリグラム(ソル・コーテフ二〇〇ミリグラム分を含む。)のソル・メドロールを投与したことになるから、合計三〇〇ミリグラムを超えた一一月一九日ころから、副作用の発生について注意をすべきであった。加えて、ボルタレンとステロイド剤との併用は、相互にその副作用を増強させるおそれがあったうえ、六〇歳を超えるような高齢者は、それよりも年少の者と較べて消化性潰瘍等の副作用の発生のおそれが高いのであるから、副作用の発生に十分注意してそれらの薬剤を投与すべきところ、当時、六二歳と高齢であった亡太郎に対し、ボルタレンとステロイド剤とが併用して投与されたものである。

以上のとおり、奈良病院の担当医師は、高齢である亡太郎に対し、ボルタレンとステロイド剤を併用投与するという治療方針を立てていたのであるから、直ちに抗潰瘍剤を投与するのはもちろんのこととして、ボルタレン使用の許容期間である五日間を超えてボルタレンを使用しようとし、かつ、ボルタレンの使用の五日目である一一月二〇日に、亡太郎が胃の膨満感を訴えたのであるから、同日か翌日ころには、消化性潰瘍等副作用の発生の有無について、内視鏡検査かX線検査等による十分かつ適切な検査をすべき義務があったと解するのが相当である。

それなのに、奈良病院の担当医師は、一一月一七日に血液検査をした後は、同月二三日に眼球結膜の目視による貧血の検査をしたにすぎないから、時期が適当とはいえないうえ、適切な検査をしたともいえないというべきで、検査義務を怠ったといわざるをえない。

被控訴人は、同月二〇日、亡太郎の喉頭の腫脹の状態に著しい変化はなく、胃の膨満感があったが、リンパの腫れがほとんどなくなり、食事もできていたことなどから、副作用のおそれはなかったと主張するようである。奈良病院の担当医師は、その供述どおり、つい事実と違って、胃痛とカルテに記載し、ガスターの投与を保険請求で認めてもらいたいため、カルテの傷病名欄にステロイド潰瘍の疑いとの記載をしたのかもしれないが、右医師が、まったくステロイド潰瘍の疑いがなかったとの認識のもとに、右のような対応をしたとはいいがたいうえ、当時、亡太郎は、胃の膨満感を訴えていたのであるから、やはり、一一月二〇日ないしその直後ころの適切かつ十分な検査義務は免れないというべきである。したがって、被控訴人の右主張は、採用できない。

以上のとおり、奈良病院の担当医師は、亡太郎の治療に当たって、検査義務を怠った過失があるというべきである。」

四  争点3(亡太郎の死亡の原因)について

前記一の前提事実によると、亡太郎は、くさち耳鼻科及び奈良病院から、継続的にステロイド剤及び非ステロイド系消炎鎮痛剤を投与されていたところ、胃潰瘍が発生し、同薬剤を八日間継続的に投与された次の日の一一月二四日、自宅において立てなくなり、奈良病院に搬入され、脈拍触知不能、血圧測定不能の状態で、吐血し、全身けいれんを起こし、内視鏡検査の途中で吐血し、呼吸不能になり、奈良県救命救急センターに搬送され、出血性胃潰瘍、出血性ショック、DICと診断され、出血が続いていたため、その日のうちに胃の五分の四を摘出する緊急手術が行われ、同月二八日、脳梗塞を併発し、一二月六日、縫合不全、消化管出血等のため、残胃を全部摘出する手術が行われ、その後の同センターの治療も功を奏さず、同月二六日、多臓器不全、敗血症等により死亡したものであり、右の一連の経過をみると、亡太郎の死亡は、右薬剤の投与により、胃潰瘍を発症し、右潰瘍からの出血のため、胃の摘出手術を施さざるをえなくなったことが大きな起因をなしているものと推認されるから、奈良病院の担当医師の検査義務違反と亡太郎の死亡との間には、相当因果関係があるとみるのが相当である。

被控訴人は、亡太郎にとって、娘の結納という心労及び一一月二三日の結納式当日の飲食並びに喉頭蓋炎による肉体的苦痛のストレスも胃潰瘍の原因として十分であると主張し、確かに、それらの起因を全く否定することはできないと考えられるが、奈良病院で喉頭蓋炎の治療を受けていたということで、亡太郎の行動も慎重であったはずであり、結納も簡易であったこと、喉頭蓋炎自体も快方に向かっていたことなどから、亡太郎の心労及び肉体的苦痛は、胃潰瘍の発生にさほど影響していないと考えられること、亡太郎の胃潰瘍の症状が、痛みを伴わないで、急激に発現していることから、右胃潰瘍は、精神的及び肉体的苦痛を原因とするというよりも、薬剤による副作用としての薬剤性潰瘍と考えられることなどに照らすと、右主張は採用できない。

また、被控訴人は、亡太郎には陳旧性心筋梗塞があり(解剖の結果)、これは単独でも心不全の原因になりうるものであるうえ、亡太郎は緊急手術後に脳梗塞を併発しているから、胃出血を防げば、死を回避できたとはいえないと主張するが、陳旧性心筋梗塞は昭和六一年ころ発症したもので、死亡より相当以前のものであること、脳梗塞後にも消化管出血等が続いたため、残胃の全部摘出の手術が行われていることなどから、脳梗塞よりも出血性胃潰瘍が重篤な症状であったというべきであることなどに照らすと、右主張も採用できない。

なお、奈良病院の担当医師が、一一月二〇日か二一日ころ、適切で十分な検査をしても、亡太郎の死亡を回避できなければ、右検査義務の不履行と右死亡との間に相当因果関係がないといわざるをえないので、右の点についても検討する。奈良病院が、一一月一七日に亡太郎の血液検査をしたが、異常がなかったこと、亡太郎は、一一月二〇日午前零時過ぎころ、黒色便を排泄し、異常を感じていたが、同日の受診の際、そのことを担当医師に明確に訴えないで、ちょっと胃が張ったような感じがすると告げたに過ぎず、同月二一日ころにはその膨満感も治まり、通常に食事ができていたこと、同月二三日、娘の結納の式に参加し、その後、近くのインド料理店で食事をしていることなどに照らすと、亡太郎は、ボルタミン使用の許容期間の五日目である同月二〇日に副作用を示す黒色便を排泄したが、その後、その黒色便や膨満感も治まっているから、検査義務の認められる同月二〇日や二一日ころには、未だ、同月二四日に見られた症状が出現していたものではなく、同月二〇日ころから同月二四日にかけて、急速に、出血性胃潰瘍の症状が進行したと推認できるから、その当初の同月二〇日や二一日ころ、検査義務を尽くしていれば、同月二四日の症状よりも相当軽い時期に発見でき、死亡に至る可能性は、まずなかったということができるから、検査義務を履行をしていても、亡太郎の死亡を回避できなかったとはいえない。

したがって、亡太郎と診療契約を締結し、適切な診療行為を実施する義務を負った被控訴人は、その債務不履行に基づき、亡太郎の死亡による後記損害を賠償する責任があるというべきである。

五  過失相殺について

被控訴人は、その主張中において、過失相殺という直截な表現はしていないが、亡太郎が、問診の際、胃潰瘍の既往歴があるのにないと申告し、副作用の兆候に関しても、膨満感があると訴えただけで、黒色便が出たことを告げなかったため、対応の遅れを招いたなど、亡太郎の言動に落度があると主張するので、当裁判所は、被控訴人において過失相殺を主張するものと解し、検討する(なお、債務者の主張がなくても、債務者が債権者の過失となるべき事実について立証すれば、裁判所は、職権で過失相殺をすることができる〔最高裁第三小法廷昭和四三年一二月二四日判決・民集二二巻一三号三四五四頁参照〕。)。

前記一で引用した原判決の「一」の1の(一)及び(三)に記載されている認定事実によると、亡太郎は、昭和五〇年ころ、胃潰瘍の内服治療を受けたことがあるが、くさち耳鼻科及び奈良病院での問診の際、胃潰瘍の既往歴がなかったと答えているところ、右胃潰瘍の既往歴が申告されていれば、くさち耳鼻科及び奈良病院における治療内容を異にし、消化性潰瘍の発生しやすい薬剤の投与を控え、あるいは減量し、早めに抗潰瘍剤を投与し、適切な検査をしたことも十分考えられるから、亡太郎が胃潰瘍の既往歴を告げなかったことは、過失とみざるをえない。被控訴人は、亡太郎は、膨満感があると訴えただけで、黒色便を排泄したことを訴えなかったことも過失であると主張するようであり、これが全く過失に当たらないとまではいえないが、亡太郎が、ことさら、黒色便を排泄したことを隠す理由は見当たらないから、言い忘れたにすぎないというべきところ、そのころ、胃の膨満感があったことは訴えているから、特に考慮すべき過失とまではいえない。

その他諸般の事情を考慮のうえ、亡太郎の過失と奈良病院の担当医師との過失とを対比すると、亡太郎の過失を二割程度とみるのが相当である。

六  争点4(損害額)について

1  逸失利益(請求額・一五八八万四三五七円) 一三六一万四六三四円

《証拠省略》によると、亡太郎は、死亡当時、六二歳の男性で、繊維製品小売業を経営していたほか、宅地建物取引の仲介業をしていたこと、亡太郎の平成四年分の所得金額は二五二万二八一九円(繊維製品小売業の所得から専従者給与を控除し、雑所得を加算した。)であり、平成五年分の所得金額は三四五万四二六五円(繊維製品小売業の所得から専従者給与を控除し、雑所得を加算し、総合譲渡は考慮しない。)であることが認められる。

右認定によると、亡太郎の死亡当時の年収は、平成四年分と平成五年分を平均すると、二九八万八五四二円となるが、死亡した年の年収が三四五万円強であるうえ、亡太郎の同年齢の男性の平成四年の平均年収が四二六万八八〇〇円であることに照らすと、亡太郎の死亡当時の年収は、控訴人ら主張の三一一万七七六〇円を下らなかったというべきである。

そして、亡太郎は、死亡当時、六二歳であり、本件で死亡するようなことがなければ、平成五年簡易生命表による平均余命一八・六三年の二分の一である九年程度は就労可能であり、その年齢、家族構成等から、生活費は年収の四割程度とみるのが相当であるから、右年収額から生活費の四割を控除した額を基に、ホフマン式(係数として七・二七八を使用)によって中間利息を控除し、右期間の逸失利益の現価を算定すると、一三六一万四六三四円(円未満切捨、以下同じ。)となる。

2  慰謝料(請求額・三〇〇〇万円) 二四〇〇万円

本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、亡太郎の死亡に対する慰謝料としては、二四〇〇万円が相当である。

3  相続

控訴人花子が亡太郎の妻で、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子が亡太郎の子であることは前記のとおりであるから、控訴人花子が亡太郎の損害賠償請求権の二分の一、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子が亡太郎の損害賠償請求権の六分の一宛それぞれ相続したというべきである。

したがって、亡太郎の逸失利益及び慰謝料について相続後に請求できる損害額は、控訴人花子につき、一八八〇万七三一七円、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子につき、六二六万九一〇五円宛となる。

4  葬儀費(請求額・一五〇万円) 一〇〇万円

控訴人花子本人の供述及び弁論の全趣旨によると、控訴人花子は、亡太郎の葬儀費として一五〇万円程度を支出したことがうかがわれるが、亡太郎の職業、年齢等を考慮すると、その葬儀費は一〇〇万円が相当である。

5  過失相殺

本件につき、亡太郎の過失が二割であることは前記認定のとおりであるから、過失相殺すると、その後に請求できる損害額は、控訴人花子につき、一五八四万五八五三円、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子につき、五〇一万五二八四円宛となる。

6  弁護士費用(請求額・合計五〇〇万円) 合計三〇〇万円

本件事案の内容、認容額、本訴の審理経過等一切の事情を考慮すると、本件と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、控訴人花子につき、一五〇万円、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子につき、五〇万円宛と認めるのが相当である。

第四結論

よって、控訴人らの請求は、被控訴人に対し、控訴人花子につき、損害金一七三四万五八五三円、控訴人春子、控訴人夏子及び控訴人秋子につき、各損害金五五一万五二八四円並びに右各金員に対する訴状送達の日の翌日である平成六年一〇月二〇日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものとして認容し、その余は理由がないから棄却すべきものであるから、右と異なる原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六七条二項、六一条、六四条、六五条一項を、仮執行の宣言につき、同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 横田勝年 岡原剛)

<以下省略>

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